ゆめ、柔らかい行き止まり

部屋は複数あって、どれも繋がっていて完全な個室はなかった。
部屋には壁がなく、川沿いの長い草地が見えた。
ここは山脈のどこかで、川沿いは木が多かった。


教材がたくさん置いてあって、自分だけ毎日授業がある。一生懸命勉強しても、とても追いつかない分厚い英語の教科書。
ピアノが置いてある。楽譜は父ので、クラシックのナンバーがたくさん。
どれもすぐに弾けない、知らない曲ばかり。フルートのピアノ向け楽譜は難解すぎて弾けない。子供向けの易しい楽譜を開いても、弾けない。世界の歌という楽譜も、中身はまったく読めない。仕方なく暗譜している花の歌を弾きはじめた。途中が思い出せない。雨はますます強い、ザーザーと降る音の中で、やっと楽譜の海から弾けそうな楽譜を引っ張り出す。みんなはテレビを見ている。


わたしの恋人のような彼はゲームしていて、それから隣の部屋にいき、黒髪の女の子と話をしている。2人にしか聞こえない声でなにか笑い合っていた。2人が恋に落ちたのがわかった。
2人はもうベッドに入った。
恋は他の人の上に降り注ぐけど、自分には降らないらしい。失ったものが戻る可能性もほとんどない。


寝ている彼の横に行く。布団の上に乗って起こす。
ドライブに誘って、ジェット機に乗り込んだ。外は雨。そして、ここは川の砂州でもうどこへも行けない。


いつかの人生でも、街中を走るだけの、飛び立てない悲しいパイロットだったことがある。今回もそうらしい。

ここは柔らかい行き止まり。

ここからはどこへも向かわない。

ゆめ、宙に浮かぶ

おれは六十過ぎの男だった。金も健康も身よりもない白髪の男で、若く激しい性格の女に命を付け狙われている。
目鼻立ちのはっきりした長い黒髪のうつくしい女だった。
なぜ彼女は俺を追いかけるのか、わかりたくないし、共感もできない。
彼女はいう。
愛してるからよ、それだけ。それ以上の説明はできないわ。愛してるのにあなたはわたしをはねつけたからよ。
薄暗い靄がかった針葉樹の道を、宙に浮かびながらもがくように進む。
両脚の膝から下は白い骨になっていた。
この生活では医者にかかる金もない。

ゆめ、デート

道路に寝転んで星を眺めたり、酔っ払って笑いながら肩をぶつけて夜道を歩いてた。小雨が降って、友人の家へ行った。

彼の友人は、私たちを監視してる。

だから、手を繋ぐことも出来なかったし、してはいけないと判っていた。

わたしの前に占い師のようなおばさんが座った。

書類を持っていた。書類は彼とわたしの1週間の記録らしい。

おばさんは、一つ一つの項目をペンで指しながら、彼は優しいけどわたしを好きになるはずがないこと、彼を好きになっても無駄だと説明してくれた。

わたしは涙をこぼして、思い上がりを恥ずかしいと思った。

おばさんは、自分の望みばかり考えはいけない、好きな人の幸せを願いなさいとわたしに言った。

ゆめ、なりたい夢

充実した人生を送ってる裕福な男で、リトアニア人で、家族はいない。

派手だけど下品じゃないスーツを着て、絵画を蒐集してる。

いまだかつて誰も見つけたことのない星を探そうとして、もし見つけたときの願い事を考えてる。

 

ゆめ、人の皮を被った怪物

彼は成功した元外科医で、わたしの家が裕福だった頃の主治医でもある。両親は食べられた。

彼が怪物でも、人殺しでもなんでもよかった。
わたしは彼が買ってくる服や化粧品や靴を身につけ、きれいに巻いた髪を結い上げる。
鏡の中のわたしは10代半ば。くすんだ茶色の細い髪、青ざめた白い顔、胸は薄い、未発達の幼い身体。
彼は上唇が薄く、皮膚は古びてしわがより、くたびれた色気がある。
物欲しげでさびしい目をしている。
背中側から両腕を回して顔を押しつけると、いつも、いい匂いがした。甘い香水、湿った雨みたいな体臭、人肉のくさみを消すスパイスの匂い。

夕食でわたしたちが食べている柔らかいもも肉は、彼が友人から寝取った女性で、彼が連続殺人犯とも知らず家までやってきた。
わたしは、彼が何に笑い、何に心を揺さぶられ、何に興味を示すのか貪るように観察している。
彼は保護者のふりをして、惜しみない愛情と優しさを注いでくれる。でも実際のところ、わたしを殺して食べたいと思ってる。彼はわたしの肉を自分好みの味になるまで育てたら、バラバラにして料理して食べる。
わたしは彼が料理した人肉を食べ、彼が選ぶ服を着て、彼だけを世界の中心にして生きている。
人間らしい心なんて彼に存在しない。
最初から存在しないものを求めたって仕方がないとわかってる。
彼はあいしてる、と言いながらわたしを殺して食べようとしている。
わたしも、彼をあいしてる。
もし、わたしが大人になるまで生きていられたら、あの薄い唇に噛みつき、かぶっている人の皮を剥ぎ、あいしてるといいたかった。

ねじくれた家のねじくれた子供だからねじくれた愛しか知らなかった。

眠れない、眠れない、眠れない...

爆発した星が頭上で音楽を奏でてる。ダイヤモンドの星は、ひっそりと宝物を隠している。くじらになって、煌めく星々の間を泳ぐ。或いは魂だけになって。
ひとつの星に行ってみる、そこは灰色で
あるものは埃だけ。球体のワームホールを眺める、表面を銀河が渦巻いている…。
わたしは宇宙のどこかにいる。そこは緑と花でいっぱいの菜園で犬とまた会える。
すこし歩いていくと小さな家がある、そこには母がいる。ここにはみんながいるとわたしは知ってる。いつかわたしたちは同じところに行く。
近所には色んな肌の人々がいて同じ言葉で話す。
果物の籠を抱えて笑っている人たちがいる。嬉しそうな犬の顔を両手で挟んで笑う。
ここでは二度と離れない。わたしたちはずっと幸せに暮らせる。

ゆめ、雨っぽい

車で隣町まで行った。

坂道の途中に、カップルがいた。

すれ違った後、二人を振り向いてみた。彼が彼女の荷物を持ってやり、二人にしか聞こえない声で何か笑い合っていた。

 

遠くで降る雨みたいなものだな、と思った。