ゆめ、人の皮を被った怪物

彼は成功した元外科医で、わたしの家が裕福だった頃の主治医でもある。両親は食べられた。

彼が怪物でも、人殺しでもなんでもよかった。
わたしは彼が買ってくる服や化粧品や靴を身につけ、きれいに巻いた髪を結い上げる。
鏡の中のわたしは10代半ば。くすんだ茶色の細い髪、青ざめた白い顔、胸は薄い、未発達の幼い身体。
彼は上唇が薄く、皮膚は古びてしわがより、くたびれた色気がある。
物欲しげでさびしい目をしている。
背中側から両腕を回して顔を押しつけると、いつも、いい匂いがした。甘い香水、湿った雨みたいな体臭、人肉のくさみを消すスパイスの匂い。

夕食でわたしたちが食べている柔らかいもも肉は、彼が友人から寝取った女性で、彼が連続殺人犯とも知らず家までやってきた。
わたしは、彼が何に笑い、何に心を揺さぶられ、何に興味を示すのか貪るように観察している。
彼は保護者のふりをして、惜しみない愛情と優しさを注いでくれる。でも実際のところ、わたしを殺して食べたいと思ってる。彼はわたしの肉を自分好みの味になるまで育てたら、バラバラにして料理して食べる。
わたしは彼が料理した人肉を食べ、彼が選ぶ服を着て、彼だけを世界の中心にして生きている。
人間らしい心なんて彼に存在しない。
最初から存在しないものを求めたって仕方がないとわかってる。
彼はあいしてる、と言いながらわたしを殺して食べようとしている。
わたしも、彼をあいしてる。
もし、わたしが大人になるまで生きていられたら、あの薄い唇に噛みつき、かぶっている人の皮を剥ぎ、あいしてるといいたかった。

ねじくれた家のねじくれた子供だからねじくれた愛しか知らなかった。